1970 Lancia Fulvia Coupe 1600 HF
- 最後のランチア主導開発モデル
- シリーズ2のごく初期に生産された1600 HF Corsa
- オリジナル塗装
- V型4気筒エンジン
- 4輪ディスクブレーキ
自動車黎明期よりモータースポーツに参戦し、数々の名声を得てきたランチア。そんなランチアがフィアット傘下に下りる前夜に発表したのがフルヴィアだ。
「ベルリーナ(4ドア)」、「クーペ」、名門カロッツェリアであるザガートが手掛けた「スポルト」と多彩なバリエーションを展開したフルヴィア。開発は初代フィアット 500の共同開発者でもあったアントニオ・フェッシアが手掛けている。基本的な設計は先代に当たるフラビアを色濃く受け継いだものであるが、エンジンは1920年代から使用している狭角V型4気筒を採用。また当時としては珍しいダンロップ製の4輪ディスクブレーキを初めから取り入れていた。
クーペの外装デザインはランチア社内のチェントロスティーレで仕上げられ、ピエトロ・カスタニェロが手掛けたとされている。クーペはベルリーナのホイールベースを2500mmから2330mmに短縮し、ベルリーナの1091ccから1216ccに拡張されたエンジンを搭載。cd値0.39と当時としては画期的な空力ボディにより、最高時速160キロ以上をマークする一級品のスポーツカーであった。
1969年にはマイナーチェンジが施され、これにより1969年以前をシリーズ1、以降をシリーズ2と形容するようになる。このマイナーチェンジ後のモデルは、フロントグリルやエンブレムの書体の違いで違いを見分けられる。また内面ではディスクブレーキがガーリング製に変更された点や、シリーズ1ではアルミニウム製であったドアやボンネットがスチール製になるなどの変更が行われた。
車体番号「818.740~」の”740”はシリーズ2の1600 HFグレードに割り振られた識別番号であるが、Lusso(豪華の意)の装備を備えない当個体は、通称Corsa(単に1600 HF)とも呼ばれるグレードに当たる。シリーズ2の1600 HFの初期に設定されていたCorsaは、ラリー仕様のフルヴィア”ファナローネ”を意識したモデルであった。
シリーズ1と同じくアルミニウム製ドアにボンネット、プレキシガラスのリアウインドウを装備し、リアフェンダーは”ファナローネ”同様に僅かにワイド化されている。また純正でバンパーがレスになっている点もラリー仕様同様の特徴だ。また三角窓の開閉機能もオミットされ、ヘッドレストの無いバケット型のシートが標準装備される。このCorsaと呼ばれるモデルは400台程度しか製造していないとされ、フルヴィアの中でも希少なモデルだ。
外装色はマックスマイヤー社製の「Rosso Corsa」と呼ばれる赤色。Rosso Corsaと聞くとフェラーリの赤を思い浮かべる人が多いが、フェラーリの赤と比べるとオレンジに近い発色をするのが特徴。そして当個体の驚くべき点は、工場出荷時のオリジナルのペイントであることだ。マックスマイヤー社は独自の塗料を使用しており、現在国内ではマックスマイヤー社の塗料は危険物扱いとなるため再現は難しい。一部に塗装のクラックが確認できるが、色褪せを感じさせないコンディションである点が魅力だ。
基本的にオリジナルの形を保った当個体だが、フロントグリルとエンジンヘッドカバーの色はラリー仕様である”ファナローネ”に近づけたカスタマイズがなされている。
前オーナーは複数台車両を所有するコレクターであり、もちろんこのフルヴィアも室内で大切に保管されていた。その恩恵か内装・外装ともに紫外線によるダメージは非常に少なく見受けられ、コレクション性の高い一台と言えるだろう。





















