1964 Honda S600
- ボディ、ラダーフレーム共にフルリビルド
- オリジナル度の高いコンディション
- 当時モノのラジアルタイヤ
車両説明
●丁寧なリビルドにより美しく蘇った”エスロク”
当個体は、「S600」をボディ、ラダーフレームともにリビルドを施し、現代に艶やかに蘇らせた一台だ。幌の部分には時の流れを多少感じさせるが、状態は至って良好。
小気味よく高回転までまわるDOHC4気筒エンジンの快音は、世界に誇るエンジンメーカーへと成長していく、ホンダの自信と情熱を感じさせる。
内装の内張り、シートは、赤色の布地で張り替えが行われ、ダークブルーの外装とのコントラストが美しい仕上がりとなっている。ステアリング、シフトレバーなどはオリジナル、さらには当時もののラジアルタイヤを備えている点においても、本個体の希少価値を上げている。
●2輪のホンダが4輪のホンダへ
ホンダの記念すべき量販車最初のモデルであり、その性能の高さで世界を席巻した「S500」。その発売から翌年の1964年に、同社はすぐさまアップデートに取りかかる。
そうして生まれたこの「S600」は先代の’”高性能”さにより磨きをかけ、ホンダの名を四輪の世界にも広く轟かせることとなった。
その最大の変更点はエンジンだ。先代が抱えていた低回転域のトルク不足を解消するため、排気量を606ccへとボアアップ。これにより最高出力57psを発揮し、リッターあたりの馬力は驚異の94psをマークした。その最高速度は145kmに達し、その記録は倍の排気量のスポーツカーに匹敵するスピードだったという。
そして当時の流行を的確に捉えた美しいボディデザインも無論、この車が名車と呼ばれる要因となった。
ロングノーズ、ショートデッキという典型的なスポーツカーのスタイルをとりながら、わずか695kgの車両重量からくるリニアな乗り味は、その魅力的なルックスと同時に、乗り手に自動車を運転する楽しさを提供したのである。
●モータースポーツで見せつけた日本の底力
S600がもたらしたものは、美しいデザイン、気持ちの良いドライビングフィールだけでなかった。すでにモーターサイクルを用いたモータースポーツで世界を制していたホンダは、この“エスロク”を引っ提げ、四輪レースの世界へと乗り込む。
そして1964年5月、鈴鹿サーキットで開催された第二回日本GPで、その頭角をいきなり露わにした。
1300ccクラスの上位は“エスロク”が完全に独占。出場した11台全てが完走し、文字通りサーキットを席巻したのである。
この勢いは国内だけにとどまらなかった。同年にはニュルブルクリンク500kmレースに出場し、見事にクラス優勝を果たす。これは国産スポーツカーがモータースポーツの本場、欧州で初めて優勝する瞬間でもあった。
デザイン、フィーリング、そして性能と、車好きの若者の心を掴む要素を全て持ち合わせていた“エスロク”。現代の交通事情では少し非力な部分を感じるかもしれないが、自動車を心から楽しみたいと願うエンスージアストにとって、衰えぬ輝きを放ち続ける一台となる。